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「タイタス・アンドロニカス」の劇中で私はピアノを弾いている。
ありがたいことだが、私はピアノがとても下手だ。
ただ、ちょっと楽譜が読めて音が取れて弾けるという程度だ。
技術がない。
心が出せない。
弾きたい音が出ない。
世の中には、もっとうまい人がたくさんいるのに・・・
ちょろっと弾けるばっかりに・・・
なかなか演出家や役者の要求に答えられず正直辛い思いをしていた。
もっと心で弾いてほしい、という言葉の意味が本当の意味でなかなか理解できない。
ところが、今日の終演後、演出の彩乃木さんに「ちょっとピアノの演出を変えてみたい」と言われた。
そして、私が弾いて彩乃木さんが芝居をしているうちにどんどん新しい演出が生まれたのだ。
彩乃木さんの芝居に、心に任せて弾いていればいいんだと思った瞬間、気持ちがふっと楽になった。
突然、ものすごく鍵盤が軽くなった。
心と心が響きあう。
ああ、なんて楽しいのだろう。
誇張でなく生まれて初めてピアノが弾けて良かったと思った。
私にしか出せない音がある。
プレリハからずっと関わってきた私が弾くからこそ、弾ける音がある。
この「タイタス・アンドロニカス」の中で弾くからこそ出せる音がある。
「君たちが確実に仕事をやってくれればこういう創造的な時間がたくさん取れるんだよ」
と言われる。
ううん・・・それはそうだけど・・・
こういう創造的なことがやりたいんだ、と真剣に求めればきっとすべての作業に無駄がなくなり楽しくなるのだろう。
しかし、今の状態は・・・
何をやっても怒られる。
最初から頼りないやつだと思われている。
報われない。
意思疎通が皆無。
こんなに一生懸命やっているのに、と思ってしまう。
そうじゃない。
本当は、もっと楽しい。
芝居は回を重ねるにつれ、どんどん重層的なハーモニーを奏ではじめている。
こんなすごい作品に関わっているのだから、もっともっと楽しまないと。
明日の舞台はもっと楽しいです。