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「タイタス・アンドロニカス」の本番が続いている。
それにしても、どこの世界でも新弟子修行というのはこれほど厳しいものなのだろうか。
なるほど、大相撲は相当厳しそうであるが。
朝はみんなの集合時間よりも2時間前に行き、舞台で使う料理の準備。
集合時間によっては6時の電車に乗らなければならない。
研究生はみな最後まで残って掃除等の作業。
料理は当然舞台で使うものであるから、味ではなく「見え方」のクオリティが問われる厳しいものである。
いかに血に見えるか。
どうやったら、内臓に見えるか。
今回の芝居では数多くの食材が出てくるので厨房はてんやわんや。
「これではステーキに見えない」
など、演出家のチェックも厳しい。
今回また大変なのが衣装のメンテナンス。
血に見せた食紅を使った食材をたくさん使うので、白い衣装が真っ赤に染まる。
何百回と洗い、漂白剤を使って落とす。
ところが、その漂白剤がデリケートな生地を使った衣装に触れてしまい色落ちしてしまった。
昨夜はその衣装の作り直し。
劇場に泊り込みで作り、睡眠時間は2時間くらい。
それでも、次の日は本番の舞台に立つ。
本番直前まで間に合うか間に合わないというようなぎりぎり作業が続く。
胃に穴が開きそうだ。
一日中、何かしら働き続け休む間もない。
食事もとれない。
どんなにがんばってもどやされ続ける。
今日は、自分の衣装を着たとたんに衣装が破れてしまった。
それのメンテナンスをしていると「なぜ受付を手伝わないのか」とどやされる。
基本的に自分のことをしてはいけないのだ。
やってもやっても間に合わない。
昨日はついに、許容範囲を大きく超え脳がスパークし本番前に倒れてしまった。
それでも、やることが減るわけではない。
夜中中かかっても料理を作ったり衣装のメンテナンスに取り掛からなければならない。
衣装のプロなわけでも、料理のプロなわけでもない。
どちらかというと苦手で要領も悪い。
まあ、私の得意なことなんて基本的にないのだが。
失敗をし続ける毎日。
トイレで泣き続ける日々。
毎日、明日はうまくいきますようにと祈っているが、なかなか安眠が訪れる日がない。
「この恐ろしい眠りに終わりはないのか?」
ただ、客演の方が大変協力してくださるのが良かった。
ドレスの作れる松本君とは、デザイナーと弟子のような関係である。
「アイロンは内側から外に当ててください」
「針に糸を通しておいてください」
などという指示に「はい」「はい」と答えて作業をこなす。
にわか弟子は、なかなか楽しい。
また、料理人の経験のある長谷川さんには様々料理のアドバイスをしていただいている。
フライパンを扱う手際には、みとれてしまう。
そんな大変な日々にもうれしいことがあった。
青森から来てくださったお客様のかおりさんが、差し入れにカップとクッキーをくださったのだ。
そのカップにはなんと前回の公演「アンダンテ」の出演者の絵が入っている。
自分の書いた台本が動き出し、芝居になり、それを観た方がカップを作ってくださる。
感動して涙があふれた。
今日は14時開演で17時くらいには解散になった。
研究生だけ残った楽屋で、つかの間の休憩のひと時がもてた。
差し入れのお菓子を食べ、笑いあう。
「そういえば、久しぶりに笑ったね」
と言う。
普段は、笑っているとさぼっていると思われるので、笑ってはいけないのだ。
この国の法律は厳しい。
アンジェロが公爵代理になったときから締め付けが厳しくなったのだ。(「尺には尺を」参照)
なんと理不尽なことだろう。
さて、裏方はなかなか大変だが、本番の舞台はすごいものに仕上がっている。
最初この作品を読んだとき、悪の権化のアーロンや、馬鹿兄弟のカイロンとディミートリアスなど脇の人物が濃いので主役のタイタスは地味な印象を受けた。
しかし、その認識ははっきりと変わった。
タイタスは間違いなく物語りを動かしている。
タイタス役の菊地さんが出てくるたびにすべてがきっちりとリードされていく。
後半の頭のおかしいふり?をするタイタスの、悲しくもどこかユーモアあふれる演技は必見です。
是非、浜川崎までおこしください。
さて先ほど、ブログペットに占いをしてもらった。
結果は・・・
「ユアンが占ってあげるね。
今日は「準備運なし」だよ。
みんな準備に忙しく大変」
やれやれ・・・