ヘンリー六世第一部〜体温ある歴史〜
今日は「ヘンリー六世第一部」を読む。
歴史に題材を借りた史劇というジャンルのものということだ。
学生の頃、世界史は得意だった。
しかし、それはただ言葉や年号を暗記すれば良かったからにすぎない。
とにかく膨大な量の言葉や記号をひたすら丸暗記し、テストが終わると忘れてしまった。
その中にいる「人間」の鼓動や生き様、体温などへの想像力を働かせる時間はほとんど皆無だった。
暗記教育の弊害だ。
多少なりともイギリスの歴史について知っていないとついていけないからか、この作品は日本ではほとんど上演されていないようだ。
作品について書かれた文献も少なく、シェイクスピアの作品の中ではマイナーなほうなのだろうか。
確かに人物関係もややこしく、やたらに人がたくさん登場するので分りにくいかもしれないが、結構面白い。
解説を引用すると「ヘンリー五世の死(1422)から、ヘンリー六世がアンジュー公の娘マーガレットと婚約(1444)するまでの22年間を、勇将トールボットのフランスでの活躍と戦死、その背景としての英国宮廷における貴族たちの不和などを軸として描いた作品である」とある。
ここにあるのは、記号で読む歴史ではない。
そこにいる人間の、国王から一兵士、貴族らの体温が感じられる歴史だ。
トールボットとその息子の死の場面は涙なしには読めない。
面白かったのはフランス軍下士官と歩哨1の会話。
見張りをしろという下士官の指示にたいし、歩哨は「かしこましました」といったものの下士官が去るとこんなことを言う。
「こうしておれたち兵卒は、ほかの連中がぬくぬくとベッドで寝ているあいだも、暗闇と雨と寒さのなかで見張りをさせられるんだ」
この歩哨がこの後どうした、下士官がどうした、などということは特にない。
ただ上の人たち(身分の高い人たち)の不和だけを描くのでなく、特にストーリーにもからまないのにさりげなく下々の人々にスポットを当てている部分が面白い。
しかも、歩哨1。
名前もついていない。
それにしても、一番キャラが立っているのが「乙女ジャンヌ」だろう。
あのジャンヌ・ダルクのことのようだが、別人だと思ったほうがいいかもしれない。
何しろ、恐ろしく生意気で羊飼いの娘なのに、貴族や皇太子にもタメ口。
「皇太子さん、私は羊飼いの娘として生まれ、学問や技芸などなにひとつ、身につけてはいないわ。そんな卑しい身分の私なのに、ありがたいことに天と慈悲深い聖母マリア様が光を注いでくださったの」
といった具合。
アニメに出てくる悪役美少女のようだ。
男と戦っても勝てる。
雷を起こしたり、悪霊を呼び出したりすることもできる。
捕らえられ、死刑になるというときに羊飼いの父親が登場する。
しかし、その父に向かって「老いぼれの下郎」などと言いさらに「私は卑しい羊飼いの娘ではない。代々の王を生み出してきた尊い血筋につながるものだ」などとのたまう。
ここまで来るとため息をつくほかはない。
歴史によく出てくる聖人ジャンヌとのあまりの違い。
あまりにも人間的すぎるというか。
これは舞台でどう表現されてきたのかぜひとも知りたい。
歴史もその中に出てくる「人間」が分ってくると俄然面白くなる。
シェイクスピアの「ヘンリーシリーズ」はさあ、読もうと思うとどうしても気が重くなる。
長いし。
しかし、この歴史の旅をタイムマシンと思ってゆったりと楽しもう。
あせることはない。
歴史は決して逃げないのだから。
今日はクリスマス・イブ。
私も少しだけだが、HMの会(ひとりもの・・・)に参加した。
今年の(今年も?)クリスマスに一緒に過ごす恋人のいない残念な人々の集まりだ。
何年かぶりにプレゼント交換なるものをやり、盛り上がった。
近所のコンビニのお兄さんは、深夜から朝の8時まで働いている。
「いやあ、働いているほうが気がまぎれますから」と言っていた。
いつもと変わらない日常を過ごしているとはいえ、みんなやはりクリスマスとなり世間が騒いでいると気持ちが浮き立ち揺れるものだ。
何か、不思議な高揚感と一体感がある。
皆様、良いクリスマスを。