悔しい女
青年座で、土田英生さんの脚本で、那須佐代子さん主演で、とくれば面白くないはずがない。
演出は宮田慶子さん。
紀伊国屋ホール。
「悔しい女」を観る。
那須さんの演じる中年の優子は絵本作家の高田(小林正寛さん)と4回目の結婚をする。
時は現代か近未来か。
過疎の村の喫茶店が舞台。
エネルギー研究所なる何をしているか誰も知らないようなあやしげな建物が近くにある。
「震えゼミ」という謎の巨大蝉の噂。
のどかな光景の中に得体の知れない恐怖がじわじわと舞台を包み込む。
徐々に優子が実にやっかいな疲れる女だということが分かってくる。
常に高田が側にいてくれないとごねだす。
妙な理屈で別の女との浮気を疑いだす。
こうと決めたらがんとして主張を曲げない。
誰もがただの都市伝説だという「震えゼミ」を真剣に探し出す。
「もっと普通にしてくれよ」という高田に、優子は「普通って何?」としつこくしつこく問いただす。
そして、一番厄介なのは優子と関わった全ての男が、彼女に好意を抱いてしまうということだ。
結果、高田の親友が二人とも彼女にあやしからぬ感情を抱く。
年齢が随分上の喫茶店のマスターまでもが、彼女に色目を使い出す。
優子もまんざらでないような態度を見せるものだから・・・
ついに温厚な高田も優子に向かってこう叫ばずにはいられなくなる。
「もう、消えてくれ!」
「私は幼稚園のころから・・・」と自分がいつも最初は好かれるのに最後には厄介者にされていた、と過去を語る優子。
でも、自分では何がおかしいのか、もうさっぱり分からない。
全部、相手が喜ぶと思って行動しているのに、(しつこくしつこくそれを繰り返すもんだから)最後は必ず切れられてしまう。
カウンセリングに行っても「正常」だと言われる。
「いっそ、異常だと言ってほしい、そして、それを治療する薬をくれればいいのに」
などと、早口にしゃべりまくる優子。
「いっそ変だと言って」と高田にせがみ、「変だ」と言われると「ついに言ったわね」とまたそのことを執拗に問い詰める。
その様子が実に哀しくおかしい。
那須さんの演技がもうみごと。
ウエディングドレス、「震えゼミ」を探しに行くための探検隊のような服装、浮気相手?と会うためのサマードレス等、優子の服装が次々と変化していくごとに、那須さんがまったく違う表情を見せるのも面白い。
終盤、エネルギー研究所から村に毒ガスがもれているという情報が流れる。
喫茶店も閑古鳥が鳴いている。
それでも、不安のある土地に住むほうがいいと言う優子。
漠然とした不安を抱えながら物語が終わる。
一体、この村はなんなのだろう。
優子と何者なのか。
なぜみんな彼女に魅かれてしまうのか。
厄介だなあと思いつつも、いつの間にか観ているこちらも彼女に同調し一緒に泣いてしまう。
生活していると、いつの間にか見ないようにしている「不安」。
そんなことをこの戯曲は描き出しているのかもしれない。