劇的なできごと
・稽古場日誌
昨日は、私にとって、劇的な日となった。
まさか、こんなことは予想もしていなかった。
しかし、予想しない自分が甘かったのだろう。
結論からいうと、今回の「ジュリアス・シーザー」の舞台に私、大西伸子は立たないことが決定した。
前回のASC公演「尺には尺を」の舞台稽古(リハーサル)を見学、及び手伝いをしていた。
直前まで、台詞を削られたり、役を変えられたりなどめまぐるしく変化し、できないと容赦なく淘汰されていく様子を間近に見ていた。
確かにそういうことは覚悟していた。
しかし、まさか出られないことになるとは予想もしていなかった。
何日か前から数回稽古を繰り返すたび、自分の存在はあまりにも全体の流れの中で、あまりにも場違いなのではないかと感じていた。
戦争の前日、「ジュリアス・シーザー」の中心人物であるブルータスとキャシアスが激しい言い争いを始める。
それが、収まったときに「二人が争うのはよくない」とけんかを止めに来る「詩人」。
あっという間にブルータスに追い出される。
ぶっちゃけ、出なくても話はつながる。
深刻な場面の後に出てくるのだから、よほどの技量のある人がやらないと雰囲気ぶちこわし・・・
せっかくの仲直りの良い場面の後に自分の存在は明らかに、台無しにしているのではないか・・・
そもそも「詩人」って・・・分かりにく!
ある方の指摘もあり、私は自分の考えを演出でキャシアスでもある、彩乃木さんに相談した。
「今回、私は出ない方が作品のために良いのではないでしょうか」
しかし、彩乃木さんに、
「どうやったら自分の役が成立するかを考えるのが役者じゃないか」
と言われた。
もっともだと思った。
私は約束した。
「次までに詩人を成立させるため5パターン考えてきます」
その日が来るまで、眠れない日々を過ごす。
研究生に自主錬をしてもらったり、ビデオに撮ってもらったり・・・
そして、その日が来た。
結局4パターンしか考えられなかった。
本当はもうひとつあったのだが、それはあまりにも・・・と自分でカットした。
生死をかけた決死の覚悟で挑んだ4パターン。
自分で言うのはなんだが、その姿は見ていたある方によると「一瞬、稽古場に暖かい雰囲気をもたらした」
・・・らしい・・・
しかし、演出家の彩乃木さんの判断は「下手すぎて、何をやりたいのか意図が分からずどれもまったく成立しない」
もともと自分が言い出したことなので、納得している。
ありがたいことに、ブルータス役で研究センターの師匠でもある菊地さんが、昨日はえらい気を使っていろいろ言ってくださった。
「昨日はちゃんと自分(ブルータス)に言葉を言おうとしていたのが伝わったよ」
芝居に関しては大変厳しい方なのに・・・
涙、涙・・・
その代わりというわけではないが、声だけの出演である役をやる。
台詞は長い。
ああ、シェイクスピア!
言葉、言葉、言葉・・・
しかも、作品のキーワードとなる台詞をばんばん言い続ける。
ヒントは途中で血管が破れそうになりながら叫んでいる声が私の声です。
俳優としては、運動神経も悪く、容姿もなっていない私だが「声が大きい」という取り柄があったためなんとかこの役をもらえた。
人間、何か取り柄はあるものだ。
「舞台に立ちたい!」
せめて、一言の台詞でも・・・
いや、たとえ台詞はなくても「その他の人々」のような役なら舞台に立てるのではないか。
そう思っていた。
しかし、今の自分では舞台にただ「立つ」技術すら持ち合わせていないのだ。
そのことが今回のことで、思い知らされた。
かえって良かったと思う。
むしろ、技術のないまま立ったら作品のためにも、そして、自分も損をする。
チケットをすでに私から買ってくださった方々には本当に申し訳けないが。
お調子者なので、ちらしも200枚くらい配ってしまった・・・
今回は私の美声?を聞いてください。
しかし、声を鍛えてきたことはなんとか認められた。
「舞台に立つ」という目標をどうやってでも、次の公演までに叶えたい。
それにしても、昨日はいろいろあり昨日突然、新たな役をもらったり動きが大きく変わったりした人がたくさんいた。
私は、やっと今まで代役をやっていた分を本役の人に引き継いだ。
本番まで、後、数回の稽古しかない。
全員にとって正念場だ。
何とかしなければ。
スタッフの仕事も忙しくなる。
なんと、突然、照明のオペレーターをやることになった。
まったく未知の領域である。
小屋入りまで練習できない。
しかも、絶対間違えられない!!!
経験者の徳丸さんに聞くと、「自分がやったときは、200個くらいきっかけがありましたよ」
ひえええええ!!!
やるしかない。