合宿が終わって

 合宿が終わり、嫌でも自分の現実を直面せずにはいられなくなってくる。
 一昨日は、楽しげなことを書いたが今日は全く正反対のことを書く。
 はっきり言えば、今さらながら人生の岐路に立たされた気分だ。
 
 合宿中にポーシャオーディションがあった。
 「ジュリアス・シーザー」の主要人物、ほとんど主役のブルータス。その妻、ポーシャの役を、ある場面を演じて女性陣が競い合う。
 
 
 私はどうしてもポーシャをやりたいというより、合宿でみんなの前でこの場面を演じることで成長した自分を見せたいし、自分でも実感したいという野心に溢れていた。
 
 結果、さんざんな「でき」だった。
 まず、台詞を言いながら妙な振りをつけていたらしい。
「らしい」というのは自分ではまったく意図していなかったのだ。

 いわゆる、「私という時には胸に手を当てて、台詞を言うときは一歩前に出て・・・」という「紙屋町さくらホテル」の台詞の中にもあったあれだ。
 小学生の学芸会を思い出してもらうと分かりやすいのではないか。
 
 「紙屋町・・・」の園井恵子さん(宝塚を経て後、新劇女優に転身)は続ける。
「確かに、そういう演技でも、お芝居の筋は分かるでしょう。(中略)でも、その、人間のこころの中までは分からない」
 
 そういう演技はやめようと、さんざん相棒の岩崎君とも話し合ったのだが・・・

 なんか私の場合、意図せずやってしまうらしい。
 自分の体を自分でコントロールできないなど「俳優」として失格である。
 何を今さら、と思われるかもしれないが・・・

 
 なおかつ、台詞がなまっていて棒読みだったらしい。(by彩乃木先生)
 自分で、テープを聞きなおした。
 まず、暗い。
 確かに明るいシーンではないのだが。
 全部一緒だ。
 あ、これが棒読みということか。
 
 おかしい。
 台詞に全部蛍光ペンで色をつけて、意図する方向を示し、もちろんアクセント記号も付けたのに。
 
 練習の間も、何度も自分の台詞をテープに録って聞いたが、まるっきり冷静に聞けていなかったようだ。

 
 相当、台本解釈も甘かった。
 かなり、相棒の岩崎君と練習したつもりでいたが、結局相手を全く見ていなかった。今考えれば、結局一人でやっていた。
 それでは、何時間、相手と練習しても意味がないのではないか。
 
 
 まったく、頭を抱えるしかない。
 そんな暇があったら練習すればいいのかもしれないが。
 しかし、ずっと同じ過ちを繰り返してきている気がする。
 そうすると、何度やっても一緒なのではないかとさえ思えてくる。


 前の養成所で演劇をはじめた当初は、私のあまりのテンションの高い演技に「異常性」を感じさせるものがあり、インパクトは高いものだった。
 それがいいことかどうかは置いといて・・・

 問題なのは、それは私が意図してやっていたわけではないということだ。
 一生懸命やった演技がたまたま異常に見えたというだけの話だ。

 それに、やはり「異常性」だけではない演技もやりたい。
 
 それで、四苦八苦してきたのだが・・・

 ううん・・・
 どんな分野にせよ、「向き」「不向き」はあると思う。
 「演劇」に限らず、芸術の分野は「向き」「不向き」を見分けるのは難しい。
 特に資格があるわけでもなく、人によっても認める方向が全然違ったりする。
 点数も付けようがない。
 ああ、だけど、だけど・・・
 やっぱり、客観的に見て「この人あんまり向いてないんじゃないか」とか思ったりもするわけで・・・
 また、もっとも「自分」のことが一番見えにくかったりするわけで・・・

 
 「向いてない」ことをいつまでもやり続けるのはどうか。
 台詞も体も「いつまでたっても」自由にコントロールできないようでは、「いつまでたっても」演出家や共演者に迷惑をかけるだけの俳優にしかなれないのではないか。
 それは、日本の演劇界にとってもレベルを下げるだけで、よろしくないのではないか。
 私は「演劇」を愛している。
 その、自分が演劇を貶めるようなことをして良いのか。


 じゃあ、何ならできるんだ?
 今さら進路変更か?
 そんな中途半端なことでは何もできないのではないか?
 私の演劇に対する思いはその程度のものだったのか?
 何のためにわざわざ京都くんだりから出てきたのか?

 こんなとき、いつも思い出すのが「絢爛とか爛漫とか」(飯島早苗 作)という戯曲の台詞だ。
 「自分には才能がない」と悩む作家の主人公に、やはり作家の友人が言う。
 
 「才能が小説を書くんじゃない。人間が小説を書くんだ。欠点を抱え、失敗をする人間が書くんだ。」

絢爛とか爛漫とか―モダンボーイ版・モダンガール版

絢爛とか爛漫とか―モダンボーイ版・モダンガール版

 それでも、なかなか何者にもなれない「焦り」「苛立ち」・・・
 どうしても消すことができない。