声優と俳優

 今日、前に行っていた学校(声優養成所)の友達と偶然会う。
 
 彼女は学校の上級のクラスで、明るくがんばってやっているようだ。
 話し振りを聞いていても、彼女が声優として世間で活躍する日もそう遠くないだろうと思わせた。
 
 
 しかし、とても気になることを言われる。

「今度、アテレコクラス(マイクで吹き替えの練習をするクラス)でも舞台をやるクラスと、アテレコクラスに分けるらしいよ。
 まあ、別にアテレコには全く興味のないあなたには、うちの学校は合わなかったかもね」
「まあね・・・」
 私は返事を濁した。
 
 
 別に興味がなかったわけではない。
 アテレコの面白さ、深さが分かるまで勉強することができなかった。
 一応、全員、入学して二年目に半年くらいアテレコ実習に入る。
 なぜかえらい怒られて「自分で聞いて、よくないことが分からなかったら止めた方がいい」と言われた。
 私は、なんとなくよくないことは分かるがどうしていいのか分からなかったので、やめたほうがいいかもしれないと思った。
 なので、その時はなんだか分からないまま、終わってしまった。

 
 その後は、舞台実習で「できる」と認められないとアテレコのクラスに入れないシステムになっている。
 私は、残念ながら認められなかった。
 毎週のようにアテレコ実習のクラスを見学し、自分に何が足りないのか考えた時期もあった。
 
 数度目の舞台実習の後「後2、3回は舞台を勉強しないとアテレコのクラスには入れられない」
 と言われた。
 ただその頃は、学校で行う舞台実習は合わないように感じていた。
 どうしても「声優」になるために舞台をやる(有料公演)というスタンスに自分がなじめなかった。
 
 
 また、学校にいる以上、アテレコクラスに入ることを最大の目的としなければならない。
 何度もアテレコクラスに見学に行っていると、
「早くここまで上がって来い」
 などと、同級生に言われる。
 見学も行きづらくなった。


 私は確かに、様々な舞台を観にいき、真剣に舞台演技を勉強して、プロの舞台俳優として舞台に立ちたいという欲求の方が、声優になりたいという願望より勝っていた。
  
 結果、ASCにたどりつき、シェイクスピアを思う存分学べる環境にいられることを幸せに思う。
 今はこの場所でプロになるため、最大限に学びたいと思っている。


 しかし、自分は前の学校で「自分に足りない何か」を見つけたのだろうか。
 生き生きとしている友達を前に、何かをおきざりにした感慨を覚えた。
 「過去の自分」に向き合い、足りない何かを見つけないと前に進めないような、そんな気がした。