脳の世界に入る
- 作者: 池谷裕二
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2009/05/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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脳の働きは、たとえば手を動かそうとする場合、「準備」「動かそう」「動いた」「指令」の順番で動いているというのだ。
つまり、手を動かそうと思ったときには、もう脳はとっくに準備を始めているということ。
考えていることなども一緒らしい。
映画のことを考えようと思ったときには、もうすでに脳は準備している。
自分の意思があって、そこで初めて行動しているのかと思っていたのにまったくの逆だったのだ。
では、行動は脳に決められているので、殺人なんかも罪には問われないのじゃないかといったら、そうではない。
われわれにあるのは「自由意志」ではなく「自由否定」つまり、「行動したくなる」よりも「行動する」ことのほうが遅い。
この間に「今回は手は動かさない」という拒否権がある。
子供はこの自由否定が下手で、簡単に暴言を吐いたり暴力を振るったりする。
つい、ハゲてる人を見て「ハゲてるね」という言葉を子供はすぐに言っちゃうが、大人はぐっとこらえる「自由否定」することができる。
つまり、成長するということは自由否定がうまくなる、ということらしい。
この「自由否定」をしているときの脳の活動を調べた論文のタイトルがなんと「To Do or Not to Do」というらしい。
これは、ハムレットの有名な独白「To be,or not to be」をもじってつけられたものだという。
「このままでいいのか、いけないのか」「生きるべきか、死ぬべきか」と訳されているあの台詞だ。
「しようと思ったのにしなかった」とき。
なんだか「ハムレット」の内容にも通じるように思える。
しない自由があるからハムレットは悩むのではないか。
他にもブログでは書ききれない興味深い「脳」の働きについて書かれていたが、一番ええ?!と思った実験がある。
それは同じ単純作業をしてもらって、自給100円のグループと2000円のグループがある。
どちらが面白いと感じたか、普通に考えたら高い報酬のほうじゃないかと思うのだが、これがまったく逆らしい。
つまり、感情と行動が矛盾していると不快に感じるので、「脳」はなんとか感情と行動は一致させようとする。
「自分はこんなに安い賃金でも働いている」「ということはこの作業は決してつまらないものではなく、おもしろいんだ」「おもしろいからこそ、私は望んで積極的に作業をやっているんだ」というふうに感情を行動している事実に合致させようとする。
なんだか充実した仕事ってなんだろう、と思ってしまった。
あまりにも報酬が高いと「カネのため」だけになってしまうのではないか。
もっと、報酬の高い仕事がしたいと願ったりするが、果たしてそれが幸せなことなのだろうか、と考えてしまった。
脳の仕組み、なんてことを考えると、あまりにも不思議で曖昧、信じていることなんてぼろぼろで自分に謙虚にならざるを得ない。
普段、小説しか読まない私にも高校生に講義しているというスタイルのこの本は読みやすかった。
常識だと思っていることがあっさりと覆されてしまう快感を味わえるお薦めの本です。