「ロマンス」笑いってなんだろう
秋公演「タイタス・アンドロニカス」の準備もそろそろと進んでいて、大変忙しい毎日。
そんな中、必ず観たい芝居が三本ある。
「シェイクスピア・ソナタ」「ロマンス」「ヴェニスの商人」の三本。
「シェイクスピア・ソナタ」はシェイクスピアが題材で、大好きな岩松了さんの作品。
それに松本幸四郎さんが主演。
観たい!
「ロマンス」はこれまた大好きな井上ひさしさんの作品で、キャスト陣もすばらしい。
しかも、あのチェーホフが題材だ。
「ヴェニスの商人」はシェイクスピアの中でも大好きな作品でしかも市村正親さん主演。
おおお・・・
どれも、チケット代は相当なもので、結構長い。
どうしよう・・・観にいくにしてもどれかひとつか、と迷ったあげく「ロマンス」に行く。
これはもうキャスト陣がすばらしい。
大竹しのぶさん、松たか子さん、段田安則さん、生瀬勝久さん、井上芳雄さん、木場勝己さんの六人。
どの方も素晴らしい演技力。
しかも、六人がひとつの舞台を作り上げようと協力しあっている様子が手に取るように伝わってきて、観ていて気持ちがいい。
チェーホフの生涯を軸にそれぞれがいろいろな役を演じる。
特に生瀬さんがどの役も非常に楽しんでやっている様が伝わってとても良かった。
にも関わらず、非常に物足りなさが残る作品でもあった。
泣ける場面もあったし、特に後半は充実していた。
本当はボードビル(歌や踊りを入れた軽喜劇。パンフレットによれば、面白い筋立て。演劇的からくりを仕組んだ芝居のこと)をやりたかったチェーホフ。
しかし、スタニスラフスキーの演出によりチェーホフが意図しなかった叙情的な文学作品になってしまう。
「三人姉妹」は「笑い」のあふれるボードビルだ、とスタニスラフスキーを責めるチェーホフ。
二人の真剣な口論の間に、トルストイが人生の苦しみをやわらげる十二箇条を読み上げて笑いを誘う。
「第一条、指にトゲが刺さったら、「よかった、これが目じゃなくて」とおもうこと」
といった具合に。
これが、笑いと涙の場面に集結する。
ここが圧巻だった。
前半のチェーホフの医師試験や医師になってからのチェーホフの奮闘などの場面がすべて後半につながっていくのは分かる。
しかし、それにしても前半が長すぎてとりとめがなさすぎるのではないか。
後半の場面の充実に比べると何か物足りない。
音響効果の生ピアノは素晴らしかった。
しかし、歌はそれぞれの俳優の音域にあまり合ってないように感じられた。
ものすごく歌いにくそうな歌だ。
ミュージカル俳優の井上芳雄さんは素晴らしかったが。
物足りない作品ではあったが、「笑い」について考えさせられたのは良かった。
「笑いというものは、ひとの内側にはそなわっていない。だから、外から・・・つまり人が自分の手で自分の外側で作り出して、たがいに分け合い、持ち合うしかありません。もともとないものをつくるんですから、たいへんです」
といったチェーホフの台詞が印象的だ。
それにしても、この作品、初日の二日前に台本が完成したという。
役者も大変だが、作家も生きた心地がしないのではないか。
スタッフも・・・
そういうことにはみんな慣れているのか?
ひい・・・