愛の迷路

anego (小学館文庫)

anego (小学館文庫)

 この小説を先日の双の会の「祈り」を観劇する行き帰りの電車で読んだので頭の中が大混乱した。
 恋愛というものは時代、国、宗教などによって違うのは当然だろう。

 しかし、こうまで違うとは・・・

 「祈り」の登場人物は「この人」と決めたら貧困、宗教の違いなどを乗り越えてどのような苦難に襲われようとも突き進む。
 しかし、現代の大手商社の商社レディを主人公にしたこの小説。
 たとえばこうだ。
「恋人はいるの?という質問に奈央子はとても困ってしまう。(中略)たまに会う男ならいる。セックスをすることもある。けれどもその男が、果たして恋人という存在で、そして二人の関係は恋愛と呼べるものだろうかと思うと、やはり奈央子は断言することが出来ない」


 「私はこの人が好き、だから、何があっても結婚する」
 そんな単純な図式が現代ではなかなか難しくなっている。
 現代ではこんななんだかよく分からない関係が増えているのだろうか。
 
 奈央子は32歳の独身で大手商社に勤務。
 仕事ができ、口が堅い性質から後輩からの信用も厚くしょっちゅう相談ごとを持ちかけられる。
 まさに表題の「姉御」と呼ぶにふさわしいかっこいい女性だ。
 会社は派遣社員を数多く登用し、奈央子ら女性社員の立場は微妙なものとなっている。
 そのあたりの困惑や、居残っていく女性がどんどん女を捨てていく様など非常にリアルに描かれている。
 
 奈央子の恋愛遍歴は混迷に満ちている。
 合コンに行った時に介抱した年下の男となんだかよく分からないまま幾度か関係を持つ。
 あるとき、あっけらかんと彼に別の女性と結婚すると言われる。
 また、申し分のない身持ちの男とお見合いをする。
 結婚してもいい、という気分になるが結局、二人の間に「愛」がないことが受け入れがたくなる。
 そして、元会社の情緒不安定な後輩の相談に乗ったことがきっかけで、その夫と不倫。

 純粋でまっすぐな愛を信じる見地からいくととても理解できないような恋愛の連続だ。
 しかし、小説を最後まで読んで、迷いに迷ったあげくだがたどりつく場所にそれほど差はないというといいすぎだろうか。

 奈央子は結局、客観的にはものすごく損で苦難に満ちた、それでも自分の心に素直に従った愛の選択をする。
 
 時代は変わる。
 愛の形はより複雑怪奇で分かりにくいものとなる。
 それでも、本当に人の心が求めている愛はそう大差ない。
 現代の愛の形も複雑に見えて本当はとても単純なものなのかもしれない。