散り急ぐ桜の花

野ばら (文春文庫)

野ばら (文春文庫)

 「私たちって、ずうっと不幸にならないような気がしない?ずうっと幸せなままで生きていけそうな気がしない?」
 なんという傲慢なそして、悲しい言葉だろう。

 
 林真理子著の「野ばら」を読む。
 主人公は宝塚娘役の千花とライターの萌。
 二人とも、生まれながらに美しく、良い家柄の育ちでお金にも男にも不自由したことがない。
 作品の中に次々と出てくるそれなりの階級の人しか行けない様なレストランやパーティー
 日本にも階級というものが存在するのだとつくづく思う。

 
 しかし、読んでいてこの恵まれている二人が幸せだとはちっとも思えないのだ。
 案の上、読み進むにつれ二人の幸せはどんどん翳りをおびてくる。
 千花の恋人は歌舞伎役者だが、誰がどうみても遊び人。
 当然のように裏切られ、男は別の女性と結婚することに。
 
 
 ライターの萌は中年の妻子ある男に夢中になる。
 うまくいくはずもなく破綻。

 
 二人の時折みせる恵まれたがゆえの傲慢な態度や言葉。
 しかし、それらはなぜか読んでいるものの心に寂しく悲しく響く。

 
 散り急ぐ桜の花をいつまでも眺めているような、美しい作品だ。