なんてたくましい体

 とあるご縁で今日の昼、オペラコンサートに行く。
 ところが、そのストーリーがあんまりにもあんまりな物語だったので印象的だった。

 「オールドミスと泥棒」というメノッティ作曲のオペラ。
 あるところに、オールドミスのミストッドと家政婦が住んでいる。
 たびたびトッドの女友達がやってきてお天気の話や、昔の恋人の話をする。
 男なんて、今は昔・・・もうすっかり過去の話。


 ところがこの家に素性の分からない若く、たくましく、美しい男がふらりとやってくる。
 トッドと家政婦はもう彼に夢中。
 にわかに色気づき、彼の世話を焼く。
「なんてたくましい体」
 と歌って暗転、場面転換。

 なんともエロい。
 別に男と何かあるわけではないし、深い仲になったりはしないのだが、トッドと家政婦の男に対するなんともいえない欲望が伝わってくるのがいやらしい。
 
 
 男は指名手配されている殺人犯かもしれない、という疑いが浮上。
 それでも、二人の彼に対する思いは止められない。
 男を引き止めるため、他人から盗んでもお金を貢ぐ。
 男は酒をほしがる。
 トッドは禁酒会の会長なので、公に手に入れるわけにはいかない。 
 家政婦と二人で酒屋に酒を盗みに行く。

 
 やがて、男は犯罪者でもなんでもない浮浪者だったことが判明。
 「出て行く」という男に「こんなに尽くしたのに」と泣くトッド。
 ついには逆上して「警察に突き出す」と言って家から出て行く。
 
 その間、家政婦は男をそそのかし、トッドの屋敷の金目のものを全部持ち去って二人で出て行く。
 戻ってきたトッド。
 しかし、彼女には何も残されていなかった。
 そんな彼女に、女友達が「大丈夫、私がいるじゃない」と歌って、幕。


 なんだこれ、このシュールなラストはなんだろう。
 つっこみどころ満載だ。
 だいたい家政婦は、主人公に随分長い間勤めてきて仲良さげだった感じなのにこの仕打ち!
 こんなに尽くしたのに・・・と主人公が男を責める場面は痛い・・・男にしてみればそんなこと誰も頼んでないよって。
 そういうことよくやりがちだよなあ・・・あああ・・・
 
 なんか妙に痛い話だった・・・
 オペラというと私はそれほど詳しくないが、豪華絢爛な設定で華やかな歌声のイメージがある。
 しかし、こういうごく普通の人の細やかな心の機微も歌っているのだな、となんだかうれしくなった。


 夜はわれらが菊地一浩師匠の演出された「The Guys 消防士たち」を観る。
 出演されていた三田和代さんは私の心の師匠だ。
 三田和代さんが朗読されている「つゆのひぬま」(山本周五郎作)のテープは何度も聞いた私の宝物だ。
 特に声を変えておられるわけでもないのに、何役もみごとに演じ分けられていて、この美しい物語が音楽のように聞こえてくる。
 もう、何回聞いても泣ける。
 三田さんの真似をして、この話の朗読に挑戦しようとしては、あまりの難しさにあきらめてしまう。
 この話の朗読は私の人生の目標の一つだ。
 その三田和代さんの朗読を思いがけず生で聞ける機会に恵まれて、実に幸運だ。
 もちろん、すばらしかったができることならもっと小さい舞台で聞きたかった。
 博品館劇場は朗読をするには大きすぎる。ほぼ満員だったが。
 集中しきれない周囲の雑音が聞こえてきて、どうしても気になった。
 朗読は自分に話しかけてくれていると錯覚できるような環境で聞きたい。
 
 
 それにしても、最近、毎日芝居や映画を観てばかりいる。
 同窓会もあった。
 「アンダンテ」が終わってから休む暇もない。
 ゆっくり振り返る間もなく、先に進む特急電車に乗ってしまった気分。
 もう、次回作の夢を見てしまった。
 いやいや、そのまえに「タイタス・アンドロニカス」に全力投球です。