赤い鳥の居る風景
木山事務所公演「赤い鳥の居る風景」を観る。
この作品(別役実 作)は40年前に書かれたというが、描かれている内容はまさに「現代」だ。
しかし、台詞の言葉づかいは今よりもていねいで美しく感じられた。
「盲目の姉」と「弟」の両親が前触れもなく自殺する。
葬式に「委員会」の者だという男が死因を調査しにやってくる。
また、葬儀にやってきたいかにも異質な「旅行者の男」は両親にお金を貸していたという。
出だしから葬式の場面で全員が黒い傘をさして一列に並んでいる。
シュールな絵を見ているみたい。
どの場面も不思議な絵画のよう。
役もおもしろい。
「委員会の男」とかもう、なんだかよく分からない。
こんななんだかよく分からない役がちゃんと成立しているのだから、これはもう台本も役者もすごい。
結局、両親が死んだ理由も今ひとつはっきりしない。
その後、委員会のある町へ「姉」「弟」その他葬儀に参加した親戚や町長さんみんなで行くが、なぜかカーニバルをやっている。
それに参加する登場人物たち。
全員のダンスシーン。
わあ!なぜ!
ここで踊る?!
別役氏の違う作品を観たことがあるが、この人には世界がこう見えているのか、といつも驚嘆させられる。 しかも、シュールな中に現代の抱える問題が織り込まれている。
分かりにくいのに、分かりにくさを感じさせない。
意味不明?!と思う部分があっても気にならなくなる。
この作品の中で一番印象的だったのは、「弟」が会社に行けなくなる件だ。
「ものすごく疲れているんだ」
と言って、会社に行ったふりをして激しく歩き続ける。
疲れているのに歩くのをやめられない。
「弟」の檻のようにたまった「心の疲れ」が、手に取るように感じられた。
彼は、窃盗を繰り返しながら生きている「若い女」と出会い、彼女に助けを求める。
「若い女」と逃げるか、再び会社に行くか。
「あなたにとって、つらい方を選びなさい」
「姉」は「弟」にそう諭すが、その時すでに「弟」はもはやどうしようもない過ちを犯していた。
犯罪を犯した「弟」を町の人々は善意で減刑を求めようとする。
しかし「姉」はその優しさに甘えて生きてはならないと「弟」に脱獄し「若い女」と逃げるよう説得する。
弟の「減刑」を求めることで、自分の「善行」に酔っている町の人々の姿は異様だ。
しかし、脱獄を進める「姉」の姿もやはり受け入れがたいものを感じる。
「つらい方を選ぶ」というのは、そういうことなのだろうか?
姉の決断はいつも迷いがない。
どんなに他の人から非難を受けても自分を信じ、毅然とした態度を示す。
しかも、彼女の決断はいつも厳しく辛いもの。
「癒し」ブームの昨今には、ちょっと見かけない。
付和雷同する町の人々の中に一人、異質な存在、「赤い鳥」。
今も、社会の中ではこういう人がはじかれている。
それにしても別役氏はこの作品を29歳で書いたという。
もう、ため息しか出ない。