黒い太陽、男という生き物

黒い太陽

黒い太陽

 昔から、夜の世界を描いた小説には心魅かれるものがある。
 ホステス、ホスト、キャバクラ、ソープ・・・
 寝ている間に繰り広げられる未知の世界・・・
 思い描くだけで、わくわくする。

 主人公は、父親の入院費を稼ぐため、やむなくキャバクラの黒服として勤めることになった青年。
 展開は漫画のようだ。
 彼の才能を認める風俗王、ライバルの出現、そして、あこがれの女性・・・

 
 夜の世界を忌み嫌っていた彼だが、150軒以上の風俗店を経営する風俗王を敵に回したことにより、なりふり構わない戦いが始まる。
 女を利用し、自分の店を持つ。
 経営妨害にあいながらも、不必要な人材は容赦なく切り捨て、ついには本当に愛する女性さえも、自分の駒として利用し犠牲にする。

 しかし、彼の頭の中には、常に父親から言われた「人を騙すな。いつだって、まっ直ぐな男でいろ。」という教えがある。
 そして、その教えと自分の行動がどんどんかけ離れていくことに、苦しみを感じている。
 そんな主人公だからこそ、思わず感情移入して読み進めることができる。


 展開は漫画のようなのに、キャバクラ経営に関するノウハウ等はやたらリアルに細かく描かれている。
 キャストと呼ばれる店で働く女性のスカウトのこつや、指名客のいないフリーの客に対しての対応のしかた等。
 また、細かなキャスト教育。
 客はキャストとホテルに行きたいがためにくどくが、絶対に一線を超えてはならない等等。
 なかなか興味深い。
 自分が就職する可能性は限りなく低い世界なのに、あまりにもリアルな描写は読んでいて引き込まれる。
 
 
 それにしても、主人公はえげつないくらい女性をその気にさせて関係を持ち、利用する。
 「一度寝ただけで、すぐ女房気取りになる。それが、女という生き物だ。」
 「このまま笑子と長い関係を続ければ、必ず、束縛に入ってくる。ある程度貢がせたら、距離を置いたほうがいいのかもしれない。」
 等々、よくもいけしゃあしゃあと、と思うような描写が続く。
 まさに女の敵。
 万死に値する。


 ただし、主人公はそういう自分を相当嫌悪している。また、割とすばやくしっぺ返しにあっているので、まあ・・・


 最初は成り上がっていく主人公に痛快さを覚えるが、あまりにもえげつないやり方に、この人は何が楽しくて生きているのだ?という疑問が頭をもたげてくる。

 しかし、彼はもはや昼間の明るい太陽は似つかわしくない。
 闇に覆われた世界でしか輝くことのできない、漆黒の夜の太陽になる人生を歩むしかないのだ。
 
 
 分厚い単行本だが、ページを繰る時間も惜しいほど夢中になって読んだ。
 ストーリー展開はみごと。
 漫画やドラマにもなっているようだ。
 未知の世界に対する興味は皆同じなのだ。


 本の帯に「もうキャバクラには行けない・・・。」と書いてあるが、本当にここまで裏側が書かれてキャバクラ業界は大丈夫なのだろうか。
 それでも、擬似恋愛(ファンタジー)を求めて行ってしまうのが、男という生き物か?!